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2006年2月17日 (金)

事故にあった子供を救う方法

Fi453_0e 以前に都立の看護学校で救急医療の講義を担当していたことがあります。100人ぐらいの看護婦さんの卵を教えるのは楽しかったですが、彼らの集中力も限度があります。いくつか興味を惹く話をした覚えがあるのですが、医学的にもとても受けた話をします。

以前に脳が使用することの出来る栄養素は、脂肪、炭水化物、糖のうち、最後の糖だけだというコラムを書きました。糖を分解するためには必ず酸素が必要です。1つのグルコースが分解されると、ATPというエネルギーが38個出来るのです。組織で酸素が足りなくなると、グルコースは乳酸という物質に変化して、ATPを2つ作ります。乳酸は、体のをだるくします。何だか体がだるく、疲れが取れないというのも乳酸の代謝が悪いことの影響のことが多いのです。余談ですが、いわゆるにんにく注射と呼ばれる、ビタミンB1を注射する療法は、ビタミンB1が、乳酸を消費して、通常の回路に戻すことを手伝うのです。だから疲れを感じるときにはにんにく注射をすると良いのです。しかし、脳は他の組織のような便利な対応はありません。大人で脳に酸素が行かない状態が4分以上続くと、間違いなく脳が障害を受けます。これは酸素が脳に供給されないと、エネルギーが使えずに、脳が維持できないからなのです。

ところで、表記のように子供が長時間、水没してしまったのに、何の後遺症もなく生き返ったと言うニュースを耳にすることがあります。6歳以下の子供の場合は、脳の構造がちょっと違うのです。脳死の概念も6歳以下の子供は例外とされています。胎生期には、子供は低酸素の状態で生活しています。お母さん静脈血で生活しているので当たり前です。そのときには、大人と違った特殊なヘモグロビンを使用しているのです。正常産の新生児黄疸というのがありますが、それは、この低酸素でも対応できる特殊なヘモグロビンが破壊され(最終的にビリルビンと言う黄色い物質に代謝されます。汚いですが、ウンチの黄色はビリルビンです。)、大人のヘモグロビンが作られる過程なのです。そしてもう1つ、この胎生期には脳が、糖だけでなく、脂肪(ケトン体)を利用できるリザーブシステムを持っています。ケトン体の分解には酸素が必要ありません。6歳以下の子供の場合、急激に酸素が低下し、体温が低下したときには、このリザーブ回路が働き、酸素のない状態で脳を保護する遺伝子が発動する場合があるのです。

言葉は変かもしれないけれど、実は動脈を切った様な特殊な場合を除いて、人間を数分以内に殺すのは実は案外と難しいのです。たとえば、腸が飛び出てしまったような外傷を受けた場合でも、出血が少なければ、約3時間は生きられます。心筋梗塞でも30分以内に(つまり救急車が来ることを待てれば)生きられます。つまり救急車を先に呼ばなければならないのです。太い動脈を切ってしまった場合は押えるしかありませんが、唯一、救急車を呼ぶ前に我々が処置をしなければならないのは、呼吸系のトラブルです。それこそ4分以内に勝負が決まってしまいます。子供さんがコインを詰まらせたり、お年寄りがお餅を詰まらせたりしたときが、もっとも危険です。そんなときは、まず、掃除機を使って吸い出してください。それで命が救われる場合があります。覚えていてくださいね。


ちなみにこの記事を読んで、僕の幼稚園と小学校の時の同級生、そして東大の研修医でも一緒だった耳鼻科医師がコメントをくれました。鋭い指摘だったのでそのまま引用します。

”小児の異物で、掃除機を使うのは正解ですが、
最初にスウィッチを入れておくと、舌にくっついてしまうので、
なるべく奥に入れてから、スウィッチを入れましょうと講習会では言っています。”

なるほど、小さなことですが、気が動転しているときには重要な情報でよね。皆さん覚えていて下さい。これで1つでも命が救われると良いのですが。(笑)

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